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丹沢山塊に、玄倉川(くろくらがわ)というのがある。1999年8月14日、大雨による増水で、河原でキャンプしていた13名が自爆した川である。

同角沢は、その現場から約10km上流の右岸にある、細い、やや急峻な谷だ。

水量は少ない。大雨が降った翌日でも、あまり遡行に支障はない。

とはいうものの、林道から来た場合、玄倉川を一度渡渉しなければならないので、増水時のハードルが高いことには変わりがない。

登り甲斐のある滝が、つぎつぎ現れる。直登するよろこびを噛みしめられる沢である。

三重の滝、不動滝、無明の滝、遺言棚、とザイルをしまう暇もない。

沢は両岸とも、垂直な壁に挟まれている。夏至の時期でも、1日の日照時間が2時間に満たない場所が多い。それでさえ、梢に覆われて心許ない。

ほの暗い日射ししか得られない幽谷だが、草花はなかなか豊かに咲いている。ヒメレンゲの花畑も楽しめる。そして運が良ければ、ボスキャラ級に大きな株も発見できる。滝の飛沫で、いっそう姿はみずみずしい。

滝を懸垂下降するのも面白い。

落差は、最大40mくらいなので、ザイルを2本持って行って連結すると確実だ。ただ、入渓点の小滝なら、50mの1本で充分。下が適度に深い滝壺になっていて、最後はたぶん水泳大会になる。

入場料もかからないし、夏の暑い日にオススメです。

美しい上、楽しい沢である。

唯一の欠点は、車を降りてから入渓点までが長い、ということだ。車は、丹沢湖から5km上流の駐車場までしか入れず、そこから片道1時間、林道を歩かねばならない。日帰りにしては、長いオーバーヘッドだ。

1泊2日確保できる場合、車を乗り入れられる裏技がある。ユーシンロッジに泊まるのである。ここの予約さえしておけば、玄倉バス停の前にある商店で、林道を封鎖しているゲートの鍵を借りることができる。

上流に集落がまったく無い玄倉は、驚くほどキレイな流れをたたえている。空気も澄んでいる。淵の深み、星空の輝き、草花の艶やかさ等、沢と合わせ技でキャンプするにしても、題材には事欠かない。

ロマンチックな夜を過ごすためにも、ここが怪談のメッカという事実は、帰宅するまで伏せておいた方がよいだろう。

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© 2005 Takafumi Kasai ()