2004 Mt.Cotopaxi (Ecuador)
←戻る

このページの概要

2004年1月に行った、アンデス山脈の登山写真です。

廻った山は、エクアドルのピチンチャ(Mt.Pichincha, 4200m)、パソチョア(Mt.Pasochoa, 4794m)、コトパクシ山(Mt.Cotopaxi, 5897m)で、行程は、計14泊15日です。

動画の再生には、Windows Media Player 7.0以降が必要です。


エクアドルは、とにかく色が鮮明です。

国名 "Ecuador" が示すとおり、赤道(Equator)直下の常夏で、一年中、高山植物が咲き、野山はいつも鮮烈です。

国は、気候や地形の特性から大きく4つのエリアに分かれています。

ガラパゴス諸島。太平洋沿岸地域。熱帯雨林地域。そして今回廻った山岳地域です。

山岳地域は、ほとんどの部分が標高2500mを越えており、首都・キト(Quito)も、標高2800mに位置します。北アルプスの稜線にも匹敵します。

気をつけないと、観光しているだけで高山病にかかります。

この標高ゆえ、陽は強く、青空は途方もない深みをたたえているのです。

かつてスペインの植民地だったエクアドルには、17世紀ヨーロッパの特徴をもった町が、たくさん残っています。

当時の面影をこれだけ大規模にとどめた場所は、既にスペイン本土にすら残っておらず、そのため、首都・キトは、ユネスコの世界文化遺産にも指定されています。

街は、旧市街地と新市街地に分かれています。

旧市街は、東京でいうと台東区、文京区のようなレトロな場所。陽気なラテンの人々で活気溢れ、ごみごみしてますが、それが魅力です。

対して新市街には、お洒落なショットバーやブティックもあって、さしずめ新宿区、渋谷区に相当します。

キトは、人口1200万人を超す大都市ですが、車で小一時間も走れば、もうアンデス山脈の懐です。

もともとの標高が高いため、周囲の里山にすら、4000mを越えるものがザラにあります。

4000~6000mの山に、国際空港から1時間以内に麓へ。4時間以内に山頂に着ける、というアプローチの良さは、エクアドルが世界に誇る観光資源です。

山裾は、まさしく「コンドルは飛んでゆく」の世界です。

地平線の見える丘で、持ってきたエスプレッソを嗜みつつ昼寝とかすると、最高に気持ちいい。

高度順応のため、まず里山に2つ登りました。

こちらはパソチョア山(4200m)。余裕で富士山より高いですが、山頂まで牧草で覆われ、阿蘇山のようにほんわかした山容です。

登山道もふっとくて登りやすい。

ただ、酸素(気圧)はしっかり薄いため、牛歩戦術でないと死にます。

ふだん山で飛ばしまくってる人だと、景色の変化がゆっくりなのに耐えられないでしょう。

稜線の起伏はなだらかなものの、小ピークがいくつも立ちはだかっているため、本ピークへの精神的な距離はずっと遠い。

道ばたの花を愛でる余裕も、次第になくなりますが、もったいないので頑張りましょう。

目線を花の高さまで下げると美しい。

息を殺して観察してると本当に危ないので、深呼吸はぬかりなく…

牛飼いのおっちゃんと一回すれ違っただけで、他に登山客は居ませんでした。

付近の活火山からの降灰のため、快晴でも、視界はそれほどクリアではありません。真冬、都心が移動性高気圧に覆われた時みたいな、霞のかかったキトが遠望できます。

翌日は、ふたたび高度順応。もう少し標高の高い里山・ピチンチャ(4794m)にトライします。

山頂の少し手前まで車で上がれますが、それだと練習にならないから、南アルプスの光岳なみに林道をとぼとぼ歩きます。

雲海が凄いのでそんなにタルさはありません。

道ばたは、高山植物の宝庫です。

雑草より花の方が多いかもしれません。メッチェンがいれば歓声が上がったことだろう。

「登山家の花」と呼ばれる、エクアドル固有種。

見た目が雲丹だったので分解してみたが、味噌とかは入っていなかったよ。そして、靴下のような匂いがした。登山家だけのことはある。

歩は分速20m。もうこれ以上ゆっくり歩けないくらいの早さだが、さすがそこは4800m。なんとなく脳に麻酔がかかったような夢見心地になってしまう。

ハエを捕まえようとしたが、あまりの素早さに、まるで歯が立たない。

仕方なく、遠くの景色を呆然と見る。

噴火で鬼ヶ島のような形に化けた、アンティサナ(Mt.Antisana)山が、ひときわ異彩を放っていました。かっこいい。

帰りに、水を買いに寄ったジョア(Lloa)の村。

人通りは少なく、ときおり風が吹く以外、イベントが起きる気配がない。

時間が止まったか、人類が死に絶えたんじゃないかと、いろいろ空想できるほど、気合いの入った静けさだ。

と思ってたら、野良犬登場だ。

しかし満身創痍。目鼻は皮膚病でただれ、足の創傷に蛆がたかっていた。慌てて逃げ出す。

水は無事買えたよ。

「ボルケーノランド(Volcanoland)」という宿。三日間お世話になる。

酪農家のご主人が、納戸などを宿坊に改造し、宿として営業されている。藁葺き・木造だが、防音性や断熱性は普通の宿と変わりなく、この「いかにもアンデス」な雰囲気を、快適に満喫できる。

好きな人にはたまらんだろう。

世界各国から、新婚旅行でやってくるカップルとか、すごく多いらしく、週末は、半年先まで予約でいっぱいになっていた。

ラウンジで一緒になったアメリカ人男性は、この夕日で女を口説いてやると言ってた。やってみんさい。

朝飯の食卓。

エクアドルは伝統的に、クロワッサン+卵料理+コーヒーが朝飯の王道だ。日本の「ごはんとみそ汁」と同じ位置づけである。

酪農家も兼業なので、食材の新鮮さは、築地の寿司屋もはだし。

一日三食、絞りたて牛乳(およびそれから作ったバター・チーズ)や、畑の無農薬野菜がてんこ盛りで、いつも腹ぱんぱんになってしまう。

デザートは必ず付く。苺ムースの舌触りは、筆舌に尽くしがたい。

外は快晴。馬が散歩していた。オプションで、乗馬体験ツアーもあるのだ。

宿に泊まっていたカナダ人ご夫婦の、奥さんの方が、これにハマってしまい、毎日6時間くらい乗りまくっていた。旦那は、やることもなく暖炉で鼻毛を抜いていた。

我々は、今日も高度順応の散歩だ。農業用の小径を通って、周辺の丘をゆっくり巡る。

標高は約3600m。富士山とほぼ同じだ。

近くにふっとい川とかがある訳でもないのに、一帯は、豊かな植生をたたえている。

歩道でさえ、草びっしり、緑色の絨毯だ。こんな繁殖力に満ちた草むらを見たのは、屋久島以来である。

植物ひとつひとつも、日本のやつと全然違うから、つい撮りまくる。

36枚撮りフィルム15本、14日間ですべて使ってしまった。

写真をブレずに撮るテクニックとして、「呼吸を止め、暗夜に霜の降るごとくシャッターを押す」と昔から言われるが、高所ではすこぶる危険である。

撮れることは撮れるが、立っていられないくらいの目眩が襲ってきて、あなたは写真と引き替えに、意識を失うだろう。

三脚使うといいよ。

ときどき、遠くの山裾を、大型の鳥類が飛翔する。

種類が分からなかったけど、大枚はたいて旅行に来たんだし、コンドルと思うことにした。「ああ、アンデスに居るんだな」と、自身を洗脳するために。

帰ると、牛が乳揉まれたそうな顔で待っていた。

今日も濃厚ミルク頼むよ。

乳で気持ちよくなったので、夜はラウンジで、スイス人の男女4人と、「心と体と愛」について熱く語った。

「日本人は、お金と愛を分けて考えたがるが、それは間違っている。金がなきゃ愛も続かないと私は思うの。愛はプライスレスじゃないのよ。どうなのよ一体」と詰問され、戸惑うばかり。

マスターカードに抗議してみてはどうでしょう、と提案し、寝た。

翌日から、コトパクシ(Mt. Cotopaxi)山にアタック。

標高5900m、アイゼン+ピッケル必要・コンテ付き。いよいよ大ボス登場である。

麓のホセリバス小屋まで行って、頭痛に悩まされながら床につく。不安を、飲酒とかで紛らわせたい気分だが、そんなことしたら、滑落死の前に高度障害で死んじまうから駄目よ。

小屋のキッチン(ガスコンロ付き)ではピザも焼ける。世界からやってきた山好き達で賑わいを見せている(Windows Media 9 形式/0分25秒/1.21MB)

午後の行動は、雪がくさり始めて危険なので、標高5900mまで日帰りピストン。午前0時に出発だ。

ヘッテンの電池を新品に入れ替え(途中での交換は死ぬほど危険)、6時間半の行動で頂上をめざす。

狂ったようにぎらぎら輝く、満天の星空だった。

なかなか怖く、しんどいのだ。日が昇ると、クレバスが間近に見えるので、精神的にもダメージがたまる。

セルフビレイと三点確保で、とにかく一歩、前に踏み出す。その繰り返し。

体は、脳と心臓を守るため、本能的に、手足への血流を減らす。痛いぐらいに指が冷える。5分おきに、全身を震わせるように指先をこする。

ワンゲル時代の「錬成」など、屁のつっぱりにもならんです。すごいです。

で、それまで三点確保しないとへばりついていられなかった傾斜が、あるとき急に、ゆるやかになります。

周囲360度なにも障害物のない、頂上です。

心配していたほど寒くもなく、氷点下10度程度でした。

感動と涙が停まらなくなって、その場で膝立ちになって、心ゆくまで、その充実感を堪能していました(Windows Media 9 形式/0分16秒/775KB)

コトパクシ山です。

もう、自分の足で上がれたことだけで大満足。富士山に似てるとか、山の形がステキとか、他はとりあえずどうでも良くなった。

「日本人は、お金と愛を分けて考えたがるが、感動は、分けても分けなくても感動」

降りてきて駐車場にて写す。

コトパクシのアタックを試みる人は多いが、成功率は2割あるかないかである。

ただしこれは、決してコトパクシが難しい山だって訳ではない。逆に、6000m級の山にしては、すこぶる簡単な部類に入るのだ。

入門用だから、初心者が多く、その結果、成功率が低いのだ。

富士山と同じだろうか。

翌日は、休養日=観光。

アラウシという渓谷の村まで車で行って、「グアヤキル&キト鉄道」に乗ってきた。ちょうどアラウシはお祭りの日。客引きは比較的多かった。

グアヤキル&キト鉄道のアラウシ駅。

かつては国土を南北に移動・輸送するうえで重要なインフラだったが、今は、飛行機に座を譲り、もっぱら観光用となっている。

どうせ観光するならとことんやれ、というスタンスかどうか知らないが、乗るのは列車の屋根の上だ。窓ガラスとか無いぶん、景色は良い。

日焼け止め必須、かつ、帽子にストラップは、言うまでもない。

鉄道は、断崖絶壁の縁(Windows Media 9 形式/1分20秒/3.51MB)に敷かれている。スイッチバックも途中2箇所。急峻なので、たまに運転手が、線路に砂撒て滑り止めしたりする。

最高時速は20km/h程度だ。とはいえ、浦安のドブネズミ園と違ってシートベルトもないし、下は黒部峡谷のような断崖だから、股間がすくむ。

写真を撮りまくりたいが、まだバランス感覚の修行が足りない。

車内(?)販売も、ちゃんとある。塩付きバナナチップが50セント。駄菓子屋の味がしてうまい。

水も売ってるが、高いので街で買おう。新幹線に乗る時と同じだ。

往復2時間の乗車を終え、宿に向かう。

きょうの宿も、相変わらずハイソな所。女性がいれば歓声が上がったであろう。新婚旅行客が極めて多い。

すべての部屋が別棟のコテージ風になってて、それらを結ぶ歩道は花で埋まっている。一体誰を口説けというのか。

街から10km以上離れているため、買い物は不便だが、誰かを洗脳するにはもってこいと思われ。

翌日。今日から、もうひとつの大ボス・チンボラソ(Mt. Chimborazo, エクアドル最高峰)にアタック。

が、車で麓に向かってる途中、高山病にかかってしまう。いきなり合宿終了である。

症状は、標高約4600mではじまった。

まず、手足のしびれが来る。次いで、体が冷たくなってくる。

しびれは、下腹部、肩、喉の奥、脳みそ全体にだんだん伝播し、指は硬直して、自力で曲げられなくなる。しびれ開始から約20分だ。

「すみません、ヤバいんですが」とガイドさんに伝え、すぐさま車を止めてもらう。靴を脱ぎ、服をゆるめる。

足を上、頭を下にする。脈拍は、40回/分に下がっていた。かつ拍動は弱く、頸動脈の位置も探しにくいほどだった。

ありえない脈拍に、精神的にも追いつめられてくる。

動かなくなった指先は、死人のように冷たい。「そういえば死んだ爺ちゃんも、葬式の時これくらいだったな」と、昔が懐かしくなってくる。

「血糖値を上げないと」と、ガイドさんは、多量の飴玉をザックから出し、次々と私の口に詰め込んでゆく。

続けて水のボトル。「飲み続けて下さい。車はだんだん標高を下げてますから、今は、糖分と水が大事です」どばどば口に入ってくる。

オレンジ飴が溶けてオレンジジュース味の筈だが、いまいち味が分からない。味覚はどっかに行ってしまうらしい。

車は、その場でUターンし、標高3000mまで下りる。

そこで1時間ほど休憩したら、次第に普通の状態に戻った。が、山をリトライするのはヤバい、という判断で、登攀はキャンセル。次の街に直行することとなった(T-T)

ただ、ここでもう一度、同じ高さまで上がったらどうなるか? が知りたかったので、お願いして、連れてってもらう。「タダでは起きないね」とガイド氏。

すると二度目は、何ともなく到達できた。

サイヤ人のように耐性がついたのか、運が良かったのか分からないが、再現性100%でない、という事を一応の収穫としよう。

深呼吸は、コトパクシの時と同様に実施してたにもかかわらず、こうなっちゃった原因は…

  • 飯不足? 当日は、朝からロールパン2個しか食ってなかった。
  • 旅疲れ? 既に10日目でした。
  • 酒? 前日の夜、ウィスキー200mlくらい飲んでました。

今後行かれる方は、上記を禁忌してトライしてみて下さい。

後ろ髪を引かれる思いで、チンボラソを離れた。

このへん一帯の写真は、帰りしな撮ったやつです。

これで、予定していた登山はすべて完了である。あとは観光だけだ。

チンボラソから、バーニョスという村に向かう。温泉やラフティングで有名な、若者向け観光地である。

活火山の熱源を利用した露天風呂に入れるし、飲み屋も多い。

高山病のウサを晴らすべく、翌日は、積極的にボートを漕ぐのだ。

ラフティングツアーのリーダー氏によると、この川のグレードはIII級。ボートは初めてではなかったが、指示(all, left, right, inside, など)全部英語だったので、タラタラ脳内翻訳してると水死してしまう。

いっぺん落ちた。

夜は飲み会となった。

ガイド氏を含めて参加者全員、ガバガバ飲む人だったので、青天井である。

「笠井さん、エクアドルはラテンの国です。皆、情熱的になりたくてここを訪れます。観光客の女の子、みんな冒険したがっています。赴くまま本能を解放してやれば良いのです。そうすれば今夜笠井さんは、エクアドル人になれます。」とガイド氏から悪魔の囁き。でもそんな悪行、俺はしない。たぶんしないと思う。

ただ、エクアドルが情熱的という箇所は、激しく同意である。

スーパーマーケットのマネキンも、不必要にどうかしていると思う。男はスカート履かないし、パンツにこだわらなくても別に良いじゃないか、というこれまでのパンツ観が、打ち砕かれる。

バナナも巨大。検疫の問題で持ち帰ることはできないが、スーパーにある。

日本で売ってる品種と違い、甘くないので、スープに入れて煮込んだり、フライドバナナにして食べるそうだ。ジャガイモの感覚だろう。

「生で食べるもんじゃないから」と止められたが、でもどうしても食べたかったから、買ってホテルで食う。 結論:無理。

更にカラオケもある。日本のように個室でなく、店全体で一つの曲を歌うようになっている。

店員がテーブルを廻り、料理のオーダー取るみたいにして歌の注文を取り、それを店に流す。で、客全員で熱唱するわけだ。

修学旅行のバスみたいで恥ずかしい。

入ったら入ったで、「お前日本人なんだから率先して歌えよー」と、必要以上に客の期待を買ってしまう。もう引き返せない。

エクアドルの曲リストには、モンパチも上戸彩も入ってないから、預金同様に乏しいmy洋楽レパートリーで繋ぐしかない。

で、終盤やけくそでチョイスした「ドナドナ」で、みな大盛り上がりになる。何故だ。

情熱が過ぎて、他人の家に侵入するヤツもいるらしく、家屋の塀には、割ったガラス片が埋め込まれている。

これは、エクアドルでは普通に見られるホームセキュリティである。

昼間街を歩いている分には、全然身の危険とか感じなかったが、夜は色々出るんやろなぁ。

夜、人の家に不法侵入企てるような情熱的なヤツは、いったいどんなパンツを履いているのか、とか興味は尽きないが、とりあえずチンボラソに登れなかったモヤモヤは、いつか晴らしたい。

エクアドルでよく見る、アンデス伝統衣装に身をまとった登山者達のレリーフ。

願わくば、また速やかに、この一員に加われる機会が来ますように。